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リビングには背の低い木製の大きな光沢のあるテーブルを挟んで、1人がけのソファが2つと、反対側には2人がけのソファが置かれていた。いい家だなまったく。

庭に出られるガラス戸側の1人がけのソファに腰掛けているお爺さんが片手を上げて俺を迎えてくれた。

 

「やあ、さっぱりしたかい?」

「はい。おかげさまで」

「まあ座んなさい」

お爺さんは向かいの2人がけのソファを指差して言った。

俺は促されたとおり柔らかいソラマメ色のソファに身を沈めた。

「大変だったねえ」

お婆さんはカウンターキッチンから出て来て俺の前に紅茶を置いて、お爺さんの隣のソファに座った。

「ありがとうございます」

俺は軽く低頭して紅茶に口をつけた。あっち。

 

「あなたのお名前は?」

お婆さんが言った。

「里中健助です。あのう、ここはどこですか?日本、ですよね?」

「そうよ。でもここは健助くんがいた日本じゃない」

どういうことだろう。日本が2つあるってことだろうか。

「健助くんは元いた世界とは違う世界に来たんだよ」

俺が首を傾げていると、お婆さんが落ち着いた声で言った。

「パラレルワールドってやつね」

「元の世界にはどうやったら帰れますか?」

ここがどこだろうと、とにかく俺は元居た家に帰りたい。

「それは私達にもわからない」

涼しい顔のおばあさんを見ていると、なんだかだんだん頭が痛くなってきた。

 

「健助くん。訊きたいことは色々あるだろうが、まずは私達の話を聞いてくれ」

お爺さんは優しい声で言った後、すごく真面目な顔をした。

「ここには、悪い鬼がいる」

「は?」

お爺さんは今なんて言った?おに?オニ?鬼?じゃあなんだ?やっぱりここは桃太郎ワールドなのか?

「信じられないだろうけどね。いるんだよ。ここから一時間くらい歩いたところに鬼ヶ嶽っていう山がある。そこに一年前、急に鬼がやってきた」

「はあ」

「もちろんやつらは鬼だから悪さをする。奴らは山の入り口に結界みたいなものを作ったんだ。この町は山に囲まれているから、我々はこの町を出られなくなってしまったし、町の外にいる人たちはこの町に入れなくなった。鬼だけは結界を自由に行き来できるから、奴らは外の町から品物を仕入れてきて、法外な値段をふっかけている。年金暮らしのお年寄りが多いから、今町はものすごい大変なんだ」

随分やることがセコい鬼だな。極悪といえば極悪だが。

これならもしかしたらバスケで勝負してくれるんじゃないか?

「私達が困っていると、先週婆さんが老人会の帰りに土手で大きな桃を拾ってきた」

え?俺入り桃の前にもう一つ桃があったのか?

「私達はよろこんだ。悪さをする鬼を懲らしめるために神様が桃太郎を遣いに出してくれたんだってね。でも桃の中から出てきたのは可愛らしい女の子だったんだ」

なんだか話がよくわからない方向に転がりだしたぞ。

 

「君と同じくらいの年の子でね、ハレコちゃんっていうの」

え。

「苗字はなんていったかしら?」

「浜松だよ婆さん。浜松晴子ちゃん」

「ええええっ!!」

俺はおもわず叫んだ。なんつうこっちゃ。

 

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