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「驚いた。晴子ちゃんを知ってるのかい?」

驚いているのはこっちだ。

彼女とは去年同じクラスだった。

 

浜松さんは少し変わった人だ。

彼女はどの女子のグループにも属していなかった。

だからといって男子のグループに入っていたわけでもない。

しかし、友達がいなかったというわけでも、やはりないのである。

彼女は気さくな性格で、誰にでも分け隔てなく接したから、寧ろ友達は多かった。

ただ特別仲のいい友達というのは、少なくとも俺が知る限りはいなかった。

 

中学二年生最後の席替えで、俺は浜松さんの隣の席になった。

それまではあまり彼女と言葉を交わしたことがなかったので、俺の彼女に対する認識は、「ただのクラスメイト」だった。

しかし話してみると、浜松さんは非常に面白い人であることがわかった。

品があるというかセンスがあるというか、俺の貧相なボキャブラリーでは上手く言い表せないが、俺は彼女の話し方や立居振舞に興味を惹かれた。

 

有り体に言ってしまえば、俺は彼女に惚れたのである。

 

春休みに近所の食料品館におつかいに出かけた帰り、俺は彼女と偶然出くわした。

何を思ったか俺はその場で告白し、案の定玉砕した。

 

俺の初恋についてこれ以上詳しく語る気は無い。

やっとかさぶたになりつつある心的外傷をどうして今更ほじくりかえせようか。

 

「浜松さんは中学校の同級生なんです。去年同じクラスでした。えっと、じゃあ浜松さんは今どこに?」

「晴子ちゃんは昨日、鬼ヶ嶽に入って行ったよ」

 

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