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「えっ?」

なんのために浜松さんが鬼のところに?

そもそも結界はどうした。

「『私が鬼を退治したげます』って言って、家にあった栗饅頭を3個だけ持って山に入っていったんだ。どういうわけか、結界をすりぬけてね。不思議な子だよ」

「止めなかったんですか?」

女子中学生を鬼の住む山にすんなり行かせるなんてどうかしている。

責任ある大人のすることではない。

「もちろん止めたわ。でも晴子ちゃんは『大丈夫。丸腰だから最強です。明日のお昼ごはんまでには戻ります。』って言って行っちゃったの。あの子は本当に不思議な子よ。なんだか私達も晴子ちゃんなら本当に鬼を懲らしめて帰ってくる気がしたの」

お婆さんは悔いるように言った。

明日のお昼ごはん、って、それはつまり今日の昼だろう。

もうとっくに過ぎているじゃないか。

……。

どうする。

いや、これはもう一択だろう。

「俺も鬼ヶ嶽に行きます。今すぐに」

「私も君は鬼ヶ嶽に行くべきだと思う。けれど大丈夫かい?もう少し休んだほうがいいんじゃないか?」

そんなことをしているうちに浜松さんが鬼に食われでもしたら俺は一生罪悪感に苛まれることになる。

下手をすれば自殺する。

「いえ、大丈夫です。行きます」

 

お爺さんに借りたボロボロの自転車を立ち漕ぎすること約15分。

目の前に聳える何の変哲も無いこの山が、鬼ヶ嶽である。

鬼ヶ嶽登山口と書いてあるチープな看板が立っているから間違いない。

お爺さんは車を出すと言ってくれたが、酔うと思ったのでここまでの地図を書いてもらって一人で自転車で来た。

お婆さんは俺に炭酸せんべいの入った丸い缶を持たせてくれた。

きびだんごが欲しかったがそんなことを言っている場合ではない。

 

お爺さんの話では登山口の看板の辺りからが結界である。

ここであの結界に阻まれて入山できませんでした、では笑い話にもならない。

俺はその辺に自転車を止めて、意を決して鬼ヶ嶽に駆け出した。

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